***

自分自身のための記録たち

なぎさ③

酔いもなくなっていて、話しをポツポツしながら、

「ねえすごい帰したくない顔してた。ずっといてほしいわー」と呟く。どんな顔だったの?と笑いながら返事をした。この流れはきっと、しんみりする方になっていくんだろうな、と思った矢先の予感は的中。「ねえもう一日くらいいてもいいよ」「ずっといてほしいわー」こればかりなぎさは繰り返す。

「…そうだね、もう少しいたいけどなあ、迷惑じゃない?」

「迷惑だったらもう一日いていいなんて言わないよ」

「でもなあ、うん、どうしようかなあ。私もいたいけど、うーん……」

「なんで?怒られるの?」

「怒られるってことはないけど……もしかしたら、って思うとねー。私はなぎさとこういうの続けたいって、思うから」

断れるかもしれない覚悟で言った、なぎさの気持ちも試したかったからだ。

「……それはわかんねーなー」となぎさから返った瞬間、泣いてしまった、嗚咽するほど。えちょっと泣かないでよ、と焦るなぎさに、なぎさからバイバイされた日から、なぎさを忘れたことなかった事、ずっと寂しかった事、なぎさの事ばかり考えてた事を話す。

「僕は別に何番でもいいよ、2番でも3番でも。でもさきちゃんは……特別だよ」

さきちゃんは、さきちゃんの生活が一番だよ」

だから泣かないでよーと服の袖で私の涙を拭ってくれる。そしてなぎさも泣いた、見ないで、と言いながら、顔を赤くして、涙を流していた。「なぎさこそ泣かないでよー」

「私はなぎのこと、大好きなんだよ、愛してるんだよ、」

「わかったって」

「もうこれで終わりとか絶対やだ」

そうして号泣するわたしに、なぎさは

「わかった、わかったって、終わりにしないよ。だから泣かないで」

私の涙は止まって、ティッシュで涙と鼻水を拭く。そして私は旦那の名前を交えて話をした。こういうのを悟られたら今後会う事ができなくなること、それでも私はこうやってやりとりして、頻度は少なくとも、会いたいことを伝えた。再会して、初めて『旦那』の単語を交えて、真剣に話した。なぎさは「かわいそうだね、行動制限されるんだ」と言ったが、きっとキミもそうなるだろう。この一言が、なぎさ自身そのものの言葉であることが私にとってとても貴重なものだった。いつも壁を作って話すのに、こればかりはなぎさ自身のものだったからだ。

「ねえ、次いつ会える?」「3月か4月かな」そのあとのなぎさの無言の頷きも、かわいかった。

「なぎさあ、ねえ、私のどこが好き?」

「全部」

そのあとは、本当に、手を握りあいながら、笑いあいながら、話しをした。あんなに通話で話しているのに、何を話すことがあるんだろうと思いながら、わたし達は朝日が昇るまでずっと。

「なぎさえっちしよ」

「やだ」

「え!やなの」

「次にとっておこうよ」

ああ、本当に次があるのかもしれない、そうだったら、本当に嬉しい。それなら、次に取っておきたい。そのほうがきっと、次が本当にあるかもしれない。

なぎさの腕枕で寝たらやばいね、起きたら荷物の準備して、荷物送って、お風呂入って、ご飯食べようか。

さきちゃんが僕と同じくらいだったらさ、僕毎週木曜日休校だから、さきちゃんも木曜日休校にして、二人で家でゴロゴロして、今週の出前館何にするか決めて、そしたらすっごい楽しかったろうなーって思うんだよね」

「いいねいいね、めっちゃいいね」

「だよねー」

考えは大人のものを持っているけど、本当にこの子は、素直で純粋なんだなと思うんだ。でなければ、もしもの話しなんかしないだろうし。声は高くて、キラキラしていて。そういうの、したかったんだね。私と、そういうことしたかったと思ってくれるんだね。

あ、もう6時だ、もう行動しなきゃ。荷物を詰めて、荷物のすべてにファブリーズをかける。なんでそれかけるの?と言われたので、手術した友人にそういう事するならちゃんとしなよって言われたから、と答える。なぎさは友人に自分の存在を話しているのが、何やら嬉しかったらしい。あとはえぺしてる子にも話していることも伝えた。

荷物を詰めて、荷物を持ってもらってローソンで送り、朝ごはんを買い、家に帰る。

「僕女の子と本当に歩かないからね、ブスと歩いてもやだし。でもさきちゃんはかわいいから一緒に歩ける」「やったね」本当に私の事をかわいいって思ってくれているんだな、嬉しかった、すごく。

「いいなあ」

「(野菜生活を飲んでいたので)のむ?」

「いいなあ、さきちゃんがいて」

そのあとはお風呂に入って、あっという間に時間が経ってしまった。

「お見送りしなくてもいい?」

「え……やだ?」

「うん、駅でバイバイしたくない」

「……うん、いいよ!もう道覚えたし」

「…ほんとー?大丈夫?」

「うん大丈夫!グーグルマップあるし!」

「………ほんとに今日帰る?」

「うん、帰るよ、また会えるもん」

「そっかー」

準備してからは、早かった。

本当はもう1日いてもいいかな、なんて思っていたから、涙は出なかった。電車に乗って、旦那にラインをして、駅で迷ったらごめん、もう1日いてもいいって言われたと保険をかけた。

なぎさにも、スカイプを送った。「もう1日いてもいい?」と。だが、返事はなかった、きっと寝ている。

そして飛行機の変更ができるかなど調べながら、果たして、もう1日いてもいいのかと悩みながら。しかし、友人の一押しで残ろうと決意し、飛行機の会社に日付の変更ができないかと問い合わせたが、それができず、電車の時間も迫ってくる、変更しても相当な金額がかかってしまうから、最後の電車の時間がやってきてしまった。

スカイライナーの切符を買う。そして3分後に出発する。急いで乗り、自分が乗っている車両には私しか乗っていなかったので、そこで、もう、なぎさともう1日いれないんだと悟った瞬間に、涙が出てきた。涙と鼻水と、嗚咽。きっとこれは帰りなさいという暗示だろうな、と思いながら、それでも、もしかしたらもう1日なぎさと一緒にいれるかもしれないという期待が白紙になって、それが、現実的になってしまったから、受け入れるしかない現状が襲ってくる。なかなか会えないんだからもっといたかったんだ。

空港につき、手続きを済ませ、チェックインを済ませて、待合室に進む通路を歩いていると、なぎさから電話がかかってきた。

「どしたー?どうなった?」

「んーー。帰るよ」

「ん?こっち?いていいよ」

「ん-ん、家帰るよ」

「なんでー?もう無理なの?」

~説明~

「あー、そっか。じゃあしょうがないね?」

「うん」

「僕がさきちゃんのこと思って泣きながら寝ちゃったからなあ」

「うん、うん、寂しいなあ」

「え?泣いてるの?もー泣かないでよ」

「うん、もうちょっと、いたかった」

「うん……そうだね。もう帰れない?」

「もう無理だよー」

「そっか、また会えるから大丈夫だよ」

「うん、でも、いたかったよ」

「そうだね、もう泣かないでよー。そしたら次何しようかなって考えよ」

「うん、うん」

「あー、なんか出前館じゃなくてちゃんとしたごはん食べたかったなあ」

「そしたら次お店で食べよ、伊勢美味しいのありそう、あ、三重か」

「わかんねーなー」

「食べ歩きしたい、なぎ絶対嫌だった言うと思うけど」

「はい、嫌ですね」

「えー、絶対美味しいじゃん。飲みながら食べるの絶対美味しい」

「うん、そうだね」

~帰れなかった理由説明~

「さっき起きたとき隣にさきちゃんいなくてガチビビった話する?」

「はは、あ、もうかも」

「えー、ほんとに帰るの?」

「帰るよ、ここまで来たらさ」

「やーだー」

「やだねえ、わたしもやだよー」

「本当に帰れないの?」

「ここまできたのに!?」

「……ねえ、さきちゃんすきだよ」

「うん、わたしもだよ」

なんでこんなに優しいんだろうな、この人。

泣かないで、次あったらなにかしようから、自然に気持ちを他に向けるように促せるのは、本当に、私を思ってくれているんだなと思うわけだ。泣かないでほしいからっていう理由があるからだろうな。

もう1日いていいよと言われて嬉しかった。もしかしたら今日で終わりかもしれないって思ったから。でも、きっと次もある、だから私すごい嬉しかったんだ、まだなぎさと一緒に入れるって分かったから。もう今回あったら、さよならしてもいいやなんて思っていたけど、まだ一緒にいたいと思ってしまったし、思ってもいいんだと分かったから。

再会したことを、なぎさも喜んでいた。もうバイバイしたくないと言うと、「多分3回目もあるよ。何かしらの形で」と、なぎさは言った。私はそうかなと返したが、少しそれを信じてもいいように、思った。

またなぎさと会えますように、と思いつつ。そしてまた会ってくれることを信じつつ。

凪佐に会えて、本当によかった。